40000メートルの先に世界/あの - 4/5

未来をかけた一大事が過ぎた夜。

渋谷での大決戦は勿論、各地で連動して起こった事案の後始末で2012年の政府も静かに修羅場となっていた。

人手が足らず、応援として処理済み案件の仕分け作業に呼ばれていた各務は、偶然手にした書類へと目を落とした。

北日本のとある空港で陸奥守と仮の主となった少女が遡行軍に襲撃された件だ。

陸奥守は当初善戦していたようだった。

だが、遡行軍の半分までを始末した所で、東京と時を同じくして彼の体にもノイズがかかり色味が消え、思うように動けなくなった。

「ああそれ、ちょっと変わった事案だよな。たしか空港から回収した映像があったんじゃないかな」

隣で休んでいた別部署の同僚が、書類整理に戻らず画像データを探し始めた。

そう、少々珍しい例だ。

陸奥守も少女もそこで最悪の状況になると思われたのだが、驚いたことに、状況が回復し陸奥守が再び動けるようになるまでこの二人は生き延びた。

少女は動けなくなった陸奥守を背負い、空港内を逃げまわったのである。

成人男性を背負い走り続ける筋力、持久力。

回り込まれても相手の視野から逸れる判断力。瞬発力。

自分たちを探している敵が真横に近づいていても、微動だにせずじっとやり過ごす精神力。

遡行軍の動きにすら僅かな隙を見つけて逃げ道に繋げる洞察力。

すべてが幼いころより武術を続けてきたというその少女の集大成だった。

「あったあった」

同僚は端末に動画を映し出した。

「この階の端から端どころか下の階にも逃げたらしいぞ。……処理の過程で個人のデータを見たんだけど、この子、こんだけの運動神経なのに部活の大会では毎度地区の予選ですぐ負けるんだとさ。どれだけ体を鍛えて勝てそうな条件にしても、絶対に向いてないヤツってのは何か、なんていうのかな。うまく言えないけど……ほんと、こういうものだよな」

同僚の声を聞いているのか、いないのか。

一振りと一人の動画を数秒見つめてから、各務はその書類を処理済みの箱に入れた。

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