40000メートルの先に世界/あの - 1/5

朝。
出勤する人々であふれかえる札幌駅のホーム。
新千歳空港行き快速エアポートの乗り場にも多くの人が並んでいる。
その電車を待つ中に交じり、竹刀袋を肩にかけた女子高校生の姿があった。

同じ年頃の平均より少し背が高い彼女が来ているセーラー服は、電車が向かう方角にはない学校のものだ。
だが出勤時間の混雑の中で誰もこの少女に目を止めるものはいなかった。
(このままだと、本当に学校をさぼることになるなぁ?)
電車がホームに入ってくる音や構内放送の騒々しさの中で、少女、深磨(ミマ)は自分にそう確認した。
(その上ずいぶん遠くに行こうとしてるけど。本当に実行するつもりかな?かっこつけて、良い人のフリして)
学校に行く時と全く同じ涼しい顔つきのまま、内心ではもう何度も自分につぶやいている。
面白いことに夕べ遭遇した怪異から深磨の腹はぼんやりと決まっていて、その自分の心境に動揺した推測15パーセントほどの正気が確認作業を機械的にピリートしている状態だった。
やがて電車が大きな音を立てて入ってくる。
(うちの学校厳しいし、二時間目にも出なかったらきっとすぐ家に連絡するよ。失敗する前に戻ったら)
ドアが開く。
(子供の頃から貯めてたお小遣いだって、どこまで足りるか解ら)
深磨の足が前に進む。
「どうにかなる」
乗り込みながら呟いた深磨の耳に、夕べから知っている声が響いた。
『すまんのお。できるだけどうにかするき』

 

前日の夜のことである。

部活後、ノロノロとした足取りで帰路についていた深磨が、人気のない公園前に差し掛かった時だった。

ツンと空気が引き攣った妙な感覚とともに彼女の前に突如黒い靄が立ち上がり、瞬く間に幾つかのにょろりとした骨になって襲い掛かってきた。

なんだ、これは。

と脳が混乱するのとは別に身についた動体視力と反射神経が働き、深磨は襲い掛かってきた最初の一匹の横っ面を学生鞄で張り飛ばした。

直後、パン、パン、パンと乾いた音が響き、張り飛ばされて横に落ちたにょろりと、続けて襲い掛かってきていた残りのにょろり達が塵となって消える。

「……げにめっそう、ざまなはちきんじゃ!」

かわりに呆れ顔で現れたのが、訛りのきついその男であった。

刀剣男士・陸奥守吉行と名乗ったその男は元々ほかの時代に出陣中だったという。

それが帰還のとき、何が起こったのか時空の経路がねじれ、一人だけこの世界に弾き飛ばされたらしい。

審神者、刀剣男士、時間遡行軍、時の政府。まるでSF小説のような話だった。

けれど事態は深磨の目の前で起こったのである。

主の力が届きづらくてうまく動けん。わしの姿が見えるなら、少しの間だけ、どうかどうか力になっとおせ。

正直そんな事情に自分が力になれるかわからなかった。

が、陸奥守の存在と彼から聞いた話は事実なのだと思った時、心の片隅に湧き上がった僅かな期待も手伝って、深磨は彼の名を口にしていた。

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