白山吉光にはわからない/紗々 - 5/5

昼から夕暮れへ空の色が移り変わる頃。
渋谷の街の各所での戦闘により遡行軍を全て退け、蛍丸と鳴狐は再び桜花の奔流に包まれて各自の本丸へと帰還した。
残っているのは、この時代の人間を「仮の主」として縁を結んでいた刀剣男士達だ。それらの刀も、一振りまた一振りとこの時代から去っていく。
「沢山お世話になってしまったね………貴方の僕に対するそっけない態度、とてもゾクゾクしたよっ!」
「おいこら、こんなちっちゃい子がいるんだから自重しろ!教育に悪影響だから!!」
「容赦ないその言い方もたまらない…ッ!流石僕の仮のご主人様!!」
「いや本当怖いからやめて、その意味不明なテンションアップやめて。
………えっとぉ!じゃあ、この子は俺が責任持って家まで送るから。そっちの刀剣男士さんも安心してよ!」
なおも悶え続ける亀甲貞宗を無視して、彼の仮の主である痩躯の青年はへらりと白山に向かって笑った。
青年と手を繋ぐ幼い子どもは、じっと白山の顔を見つめる。
「はっくん、いなくなっちゃうの?」
「わたくしは、元々この時代にはないものです。
この時代に留まる理由が喪失した以上、在るべき場所に帰らなければなりません」
少女がぐっと唇を噛んだ。
「もう、あえないの?」
今にも泣きそうな、年相応の表情を浮かべた少女は、しかし泣くまいと堪えて口をへの字にしている姿はいじらしい。
「また会える」と無責任に言うのは憚られた。だってきっと、この「白山吉光」と少女が会う事はほぼ無いのだから。
視界の隅で花びらが舞い始める。時間はもう残されていない。
「あるじさま」
白山は屈み、少女の顔を真正面に見つめた。
「この時代にも、わたくしは存在します。
いつか必ず、会いに来てください。
そして、わたくしの名を、呼んでください。」
花びらで景色が霞み始める。
少女の顔も段々と朧げになってきた。
花量に負けまいと、少女に届くようにと、白山吉光は声を上げる。
「わたくしは、白山吉光。吉光のきたえた、つるぎ、です。」
ぶわりと花の渦が膨らむ。
視界が薄桃色に埋め尽くされて何もかもが見えなくなった中で、白山吉光は確かに感じ取ったのだ。
僅かな時の間を共にした、幼い子どもの眩い程の笑顔と。
「必ず会いに行くね!白山吉光に!」
今より先の未来の、かつて小さな主であった少女の声を。
紗々

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