「あぁああっもう!!ちっちゃい子がそんな危ない事しちゃダメだって!!!」
「仮のご主人様、危ない!」
亀甲貞宗の仮の主が「めっちゃ怖い」と半べそをかきながら少女を追いかけてきた。
その痩躯の無防備な背中を狙った敵の攻撃を亀甲は受け止め、力任せに押し返す。
押された敵が後ろに数歩よろめいた好機を逃さず、亀甲が振り上げた刀をそのまま振り下ろし斬り伏せる事はできたが、やはり力が削がれているせいで再度その場に膝をついた。
「なんかそっちは纏まった感?出してるけど、状況は全ッ然よくなってないからね!?」
「そうだね…っ、今もなお敵は、増え続けているようだし、ね…!」
空を見上げれば、赤い雷光が街のあちこちに走っているのがわかる。むしろ戦況は悪化していると言えるだろう。
本来の力が出せない刀剣男士。身を守る術の無い仮の主。審神者自体に異変が起きている以上、自分達の状態が改善する可能性は低い。
せめて援軍が来れば、あるいは。
じりじりと自分達を囲む輪を狭める遡行軍に歯噛みした、その時だ。
ぶわりと、花びらの奔流が白山達の視界一面に広がった。
「これ、は…」
白山は知っている。
この花吹雪が何なのかを。
拡散するように花びらの渦が消えていく。
そして現れたのは、先ほどまでなかったはずの人影だ。
「じゃーん、真打登場でーす」
「鳴狐とお供のキツネ、いざ参らん!」
「蛍丸、と、鳴狐…」
「やややっ、そこなるは白山吉光殿に亀甲貞宗殿!
こちらの戦況は厳しいと聞いておりましたが、この鳴狐が来たからにはもう安心でございます!大船に乗ったつもりでドーンと…」
「キツネ、うるさい」
お供を窘めた鳴狐と目が合えば、鳴狐は「もう大丈夫だ」と安心させるように僅かに目元を緩ませた。
驚きから目が離せずに鳴狐達を見上げていると、肩に慣れた重みが戻ったのと袖が引かれる感覚に気付く。視線を落とせば、そこにいるのは白山の仮の主である幼い少女だ。
少女の目からは、絶えず涙が溢れている。しかし、その丸い瞳は先ほどまでとは打って変わり、星を散りばめたようにキラキラと輝いていた。
「はっくん、もとにもどってる!」
「あっ、ホントだ亀甲フルカラーじゃん!」
言葉に釣られ、白山は亀甲の姿を確認すべく視線を向ける。
戦闘での汚れや傷はそのままだが、完全に色を取り戻した亀甲貞宗が、同じように白山を観察した後、目を合わせて微笑みを浮かべた。
「どうやら、ご主人様達の危機は一先ず去ったようだね…!!」
「本丸との通信についても復旧を確認。
また、多数の刀剣男士の顕現を感知いたしました」
「俺の主さんも元に戻ったし、他の審神者もきっと無事だよ。だからこうして来れたワケだしね。
ところで亀甲達は大丈夫?なんかボロボロだけど」
「まっっったく問題ないよ!!ご主人様が無事ならば、帰還した暁には怪我をしてしまった事を詰られると思うだけで………白山吉光君?」
白山は剣を構え、己に宿った神技の力を使う。柔らかい光に包まれた亀甲の傷は瞬く間に癒え、手入れを終えた直後のように万全の状態となった。
「わたくしも、亀甲貞宗も、損害は極めて軽微若しくは回復いたしました。任務の遂行になんら支障ありません」
「よし、ならさっさと片付けちゃおっか!」
「さあさあ鳴狐、皆様と力を合わせ敵を蹴散らしてやりましょう!!
わたくしめはこちらの仮のあるじどののお傍に控えさせていただきます!」
「うん、よろしく」
「あるじさまを、よろしくお願いします」
鳴狐のキツネの隣に白狐を降ろし、振り向きざまに白山も走り出す。一足先にに敵陣へと斬り込んだ蛍丸と鳴狐を追い、戦場へと身を投じた。
「強制的に治癒を施した上に、僕のことをお構いなしに戦闘を始めるなんて…高まるよッ!!!」
「………俺、なんでアイツの仮の主になったんだろう。」
何故か恍惚とした表情を浮かべ、遅れて駆け出した姿を見送った亀甲貞宗の仮の主の疑問に、答えられるものはこの場にはいなかった。
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