消える想いと消えない思い出 / 美遊 - 4/5

 2012年渋谷に大量発生したジカンソコーグンは殲滅された。トーケンダンシの活動のために仮の主とされた人間たちはトキノセーフにより記憶も記録も削除される。
トキノセーフは無慈悲だなと思ったが、トーケンダンシと仮の主の別れの時間は作ってくれたらしい。ボロボロになって戻ってきた明石さんは髪の毛をいじりながら、あーとか、んーとか言っている。
「明石さん」
俺から声をかけた。明石さんは気まずそうにしている。
「ちゃんと負けなかったっスね」
「そりゃあ、仮とはいえ主の命令ですからあ」
「ありがとうございます。仮の主にしてくれて、あと、この時代を守ってくれて」
そう伝えると少し考えこんで、明石さんはウンもうええか、と呟いた。

「んーと、多少ネタバレになるんやけどな、あんさんの玄孫、あんさんに顔そっくりなん」
「……へ?」
「えーとなあ、あんさんの玄孫のお嬢さん、自分がおる本丸の審神者なんですわ」

えっ?え?

俺今彼女もいないんだけど???

 

「最初に渋谷の大殲滅やのうてなーんであんな田舎に出陣させられたか、あんさんの顔見てよぉわかりましたわ、そらこの時代を生きてるこのヒト守ったらなウチの本丸運営していかれへんやん!大事なご先祖様がおってこそやろ」
からからと笑った明石さんはやっぱり美人だなと思った。

「元気で…って言うのもなんか変だな、ええと……うちの玄孫と一緒に頑張ってくれ、俺も頑張るから」
「あんさんはまず彼女作ることからな。ほんで深夜のカップラーメンは身体に悪いから控え目にし」
「母ちゃんかよぉ!」

多分、時間なのだろう。明石さんの姿が少しずつ薄くなっていく。
「ほな、そろそろお暇さしてもらいますかね」
「明石さん!」
薄れゆく中で明石さんの不思議な色をした瞳が俺を見た。最初に見たときは怖かったのに、とても優しい色をしていた。
「ありがとうございました!」
頭を下げたあと、後頭部にふわりと何かが触れた気がした。
「ほなね」
やわらかい声が、寒い日の白湯のように身体に染みた。

 

どんなに記憶を消されたとしてもこの想いは忘れたくないと思った。

 

8件のコメント

bonto_sl

ハーーー好きです!!好きです!!
明石国行と30代独身男性の組み合わせのしっくり加減、理想の形がここにある……!
映画のスクランブル交差点で固唾をのんで人間たちが見守っている光景、誰が「がんばれ!!」と言い始めるのか待っていたのを思い出しました!!
代弁ありがとうございます!!!!

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くれは

明石の一挙手一投足がまさに明石で!
仮の主さんのツッコミも含めて、楽しく読ませていただきました!!
あと、すみません、お忙しいとは思うのですが・・・!
御手杵とお嬢ちゃん主の詳細も、読んでみたいです!

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隠居

明石さんのそういうところ!!!!と思いながら読みました。サラリーマンと明石の組み合わせ、エモ!!
笑った顔が似てると思う明石…😇ちゃんと主のことが好きなんだね!!
お煎餅がこんなにエモな伏線になるなんて!
最初から先祖だって分かって行ってるくせに、誰でも良かったとかいうところ、大好きです!

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美遊

ご隠居さま〜!ありがとうございます!
一番最初に思いついたのが涅槃像のポーズで煎餅かじってる明石だったのですが、そこから膨らませたらこうなりましたwww

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匿名

明石国行!! 明石国行をありがとうございます!!!!
生きている人を、何気ない日々を守る明石国行に大変ニコニコしました。好きです。

途中出てきたちび仮の主ちゃんも大変可愛らしくて、御手杵くんと並ぶと身長差がえぐそうだなぁって微笑ましくなりました

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美遊

ありがとうございます明石国行はいいぞ!!!
あの渋谷にもし推し男士が出陣したらどう戦うだろうか?と考えながら勢いにまかせて書かせていただきました!御手杵とちびちゃんサイドの話もいつか書けたらいいなあと思ってます。

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謀叛人もどき

お疲れ様です!! 読み応えのある素晴らしい小説でした~~~!
すごい!! 色々とすごい!! そうそうこういうのこういうの!!
ありがとうございます! 非常に助かります!!

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美遊

五億年ぶりにテンションに任せて書きました!
公開の場を作っていただいてこちらこそありがとうございます!

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