後少しで一周するだろうその時、空を裂く紅い閃光が目の前に着弾した。
「離れてください!」
目の前に現れた落ち武者のような化け物に固まる私へ叫ぶ声がする。
感じた事のない圧迫感に息が詰まる。動けない。
振り上げられた腕が下ろされる。
あ、これは死んだ。
直感的にそう思ったと同時にスローモーションで落ちてくる刀から目を離せないでいると化け物が突っ込んで来たものによって吹っ飛んだ。
目を釣り上げ、化け物を睨む毛利くんの手には短刀が握られており、守ってくれた事を漸く理解する。
「毛利くん」
「危ないですから物陰へ。早く!」
先程とは想像もつかない圧迫感を纏う毛利くんの言葉にただ、頷くしかなかった。
それからは凄まじかった。
短いリーチを活かし、懐へ潜り込んでは切り裂いて化け物を塵へ変えて行くその様は時代劇なんて目じゃないくらいに美しくも恐ろしく、表現する言葉を見付けるのが難しい戦いだった。
もう凄いとしか言葉にならず、目を離せないで居たからかノーマークになっていた此方へ向かって投げられた武器に目を見開いた。
「危ない!」
それに気が付いて此方へ走り込みながら武器を弾き飛ばす毛利くんの後ろで刀を振り上げる化け物に今度は私が悲鳴のような声を上げた。
「ギエアアアア」
それはまるで獣の咆哮だった。
突如真っ白な人影が飛び込んで来たと思った時には化け物は塵となって消え、代わりに真っ白な軍服のような服を着た青年が立っていた。
「髭切さん、ありがとうございます!助かりました」
「うんうん、ちゃんとお礼が出来て偉いね。でも、あまり余所見はいけないよ」
他に居なさそうだからと『ヒゲキリ』と呼ばれた青年は近くまで来ていた男性へクレープが食べたいと強請りながら去っていった。
まるで風のようだったなと思いながら此方へやって来た毛利くんを抱き寄せて怪我をしてないか慌てて確認する。
「ケガはない?!大丈夫?!」
「あはは、大丈夫ですよ。これくらいで折れたりしませんから。心配性だなー」
必死になり過ぎていたのが可笑しかったのか笑う毛利くんにホッと胸を撫で下ろしたとほぼ同時にフワリと舞う花弁が視界に入った。
「これはいったい…」
「どうやら時間切れのようです。お世話になりました」
あーあ、くれーぷ僕も食べたかったなーと何が起きているのか理解しているのか次から次へと舞い上がる薄桃色の花弁に包まれても平然としている毛利くんに呆気に取られていると小さな両手が両頬を挟んだ。
「これから貴女は貴女のしたい事をしてください。大丈夫、貴女なら出来ますよ」
そう言ってはにかむように笑ったまま彼は桜吹雪の中に解けるように消えていった。
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