守るものとは∕紅紀 - 4/7

昼餉が終わり、皇居をぐるりと囲むようにあるランニングコースをゆるりと歩きながら毛利藤四郎は口を開いた。

「この皇居に坐す天皇家も歴史の象徴で守るべきものの一つです」

国産みの男神から生まれた三柱の内の一柱の末裔と伝わる天皇家は時代の波に随分と揉まれた一族とも言える。
武家が力を持ち過ぎたが故に腐った物を配膳される等と言う惨事もあったが、命を懸けて民を守ろうと交渉に立った事もある。

「一重に『守る』と言っても色んな意味合いがあります。物を守る。命を守る。規則を守る。その他にも沢山。その中で天皇家は民の心を守っています」

天災が起きた時に訪問されたという話を聞いた事はありませんか?とまだ若い彼女へ毛利藤四郎は微笑み掛ける。
天皇家も人であるが故に過ちも犯した事もあるが、民を想う王の一族である事には変わり無く、象徴となった今もその願いは代々伝わっているのだと語る幼い顔立ちの付喪神の言の葉はと慈愛に満ちていた。

「学芸員を目指すと言うのなら、貴女も守る側となるでしょう。あらゆる物には物語(歴史)があり、それを後世へと伝える守るのがお仕事になります」
「守る、側」
「守るだけなら学芸員にならなくても出来るんですけどね。それでも一番物語に近い場所へ行けるのは学芸員や研究職の方です」

物の念いを知れる可能性があるからこそ仮の主となれたのだと口にはしないものの毛利藤四郎は未来へ繋げる職を目指す彼女の成長が楽しみで仕方がなかった。
例え見届ける事が出来ずとも、記憶に残らずとも彼女ならやり遂げるだろうと。

「今すぐに腹を決めろとは言いませんし、嫌になったら投げ出しても構いません。それでも貴女を待っている『モノ』がいる事を忘れないであげてください。そして、貴女自身が何をしたいかを見付けてあげてください」

善し悪しの正解は己の中にしかない。
己の決定権は己自身にある。
それが許される時代を生きる人々が毛利藤四郎は愛おしく思うのだった。

 

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